風に揺れる木々の中で、
彼はどこまでも続く青い空を見上げふっと笑って見せた。
その眼差しの先に何を見ているのか。
問いかけようと思って言葉にできなかった。



「・・・っく・・・ふっ・・・ぁあっ」
熱い肉棒で体の中を貫かれる。
緩慢な動きで穿たれる度に愉悦の声を上げ、それを受け止めていた。
頬に手を伸ばすとじんわりと相手の体温がそこから伝わってきたが、その目はどこを捉えているのかわからず宙を彷徨っていた。
「宗茂っ・・・っ」
清正は自分を抱く相手の名を呼ぶとその手で顔を引き寄せ深く貪るように唇を重ねた。
自分を見てくれ、と訴えかけるかのように。



関ヶ原の戦いで東軍が勝利を治めたあと、石田三成率いる西軍についた大名たちは領地を追われるようにして各地に散らばった。
清正の旧友、立花宗茂もまたそのうちの一人だった。
そこで領地を失い家臣と共に放り出された宗茂を肥後の己の領地に匿ったのが清正だった。
敗軍の将を家臣ごと無償で迎え入れる清正に城内には不満を感じる者もいたが清正はそれを無視して宗茂を自分のもとに置き留めた。
といっても何も清正が無理強いしているわけではない。
宗茂は領地を失い本当にいく宛てがないのだから宗茂自身、清正の元にいることを選んでいた。
清正は宗茂に城の離れにある一角を宛がった。
家臣と暮らすには充分な広さで、宗茂自身には一室用意されていた。
そして清正が宗茂の元を訪れてはときどきこうして体を重ね合わせていた。
「何を見てる?」
目が覚めると月明かりの中縁に腰掛ける宗茂が見えた。
季節は初夏。
布団からはみ出した肌にあたる夜風はまだ少し冷たく清正は近くにあった夜着を羽織り宗茂のいる縁側に出た。
「夜空を見ていた。今日は星が多い。」
すらりと整った宗茂の横顔が見えた。
何を見ている?
そう、もう一度尋ねそうになった。
空を見上げる宗茂の視線の先は先ほどの情事の間彼が宙を彷徨わせ探していたそれがあるような気が清正にはしたからだ。
清正が宗茂に出会った頃から二人のこの関係はなんとなく存在していた。
最初は宗茂に強引にされるがままにこうなったのかもしれないが、いつしか清正は口では文句を言いながらも宗茂と体を重ねることに抵抗感がなくなっていた。
だからと言って二人が一般に言う恋仲であったということはない。
そしてそれは今も同じことだ。
少なくとも宗茂はそんなつもり毛頭ないだろう。
宗茂にとって清正はどこまでも親しい友人、なのだ。
清正もそのつもりで宗茂に接していたし、今もそうあろうと努力している。
だがこうして体を重ねるたびに清正はどうしようもない焦燥感に駆られた。
宗茂は己を抱きながら他の者のことを思っている。
それももうこの世にはいない人物のことを。
それが宗茂が目線を彷徨わせ探すもの。
宗茂にとって誰かと抱き合うことは単なる馴れ合いだった。
そこに愛情という文字は存在しない。
だから清正と宗茂の間に置いても友情と体を重ねる行為が両立し得るのだ。
しかしそんな宗茂に愛情を教えた人がいた。
誰かを焦がれるということを教えた人がいたのだ。
しかしそれは清正ではない。
だから今こうして宗茂と清正が抱き合うのは宗茂にとってはやはり馴れ合いで、愛ではないのだ。
たとえ清正が宗茂を友情以上の情をもって思っていたとしても。
それを確かに虚しく感じるときもあるが、宗茂を繋ぎ止めておけるのであれば清正にとってそれでも別によかった。
少なくともその人物がこの世にいない今、現世で宗茂に今一番近しい人間は自分なのだから。
だけど時々こうして宗茂が空を見上げていると清正は不安になる。
宗茂は風神を異名にもつ父がいるだけあり、彼は風のような人だった。
気ままに穂をはためかせ野を駆ける風のような。
「清正、お前には世話になってばかりだな。」
だからいずれ宗茂がここを去ることはわかっていた。
「気にするな、俺たちは友人だろう?」
ようやく清正に視線を向けた宗茂に清正はふっと鼻で笑って見せた。
宗茂に初めて出会ったのがもうずっと昔のようだった。
あれから色々ありすぎて、もう自分が何を失って何を手に入れたのは清正にはわからなかった。
「静かだ。・・・太平の世、だな。」
「あぁ。」
「俺は何をしていたんだろうな。」
そうポツリと呟いた宗茂の意図がわからず清正は押し黙った。
宗茂もまた同じなのかもしれない。
新しい時代の風に清正も宗茂もまだ乗れないでいる。
「眠ろう、清正。」
それでも宗茂はやはり宗茂だ。
彼はきっともう答えを見つけているに違いない、と清正は思った。
そしてそう言ってゆっくりと腰を上げた宗茂に続いて清正も布団に潜った。


翌朝目が覚めると隣に宗茂がいなかった。
たんに先に目が覚めてどこか散歩にでも出かけているのかも知れないと思ったが、どうにも胸騒ぎがして清正は早々に着替えを済ませ外に出た。
「宗茂っ!」
馬舎に向かうと清正の予想通り、宗茂が愛馬と数人の家臣を連れて出て行くところだった。
「・・・行くのか?」
「あぁ、一応手紙を残していく者に預けたんだが。」
やはりばれたか、と宗茂は悪びれることもなく笑った。
そんな宗茂を憎らしいと思うのに清正は何も言えずにいた。
宗茂は気ままな風だ。
吹くところに吹く、それだけだ。
清正にそれを止める術はなかった。
「元気でな。」
「お前もな。」
二人の友情が潰えたわけでも、清正の気持ちに宗茂が気づいたわけでもない。
それでもきっともう二度と会うことはないだろう。
そう思った。
新しい時代を宗茂は歩み始めようとしている。
そして清正も選ばなければならない。
これからの生き方を。
太平の世で自分が守るべきものを。
青空の下、数人の家臣と供に歩み出した宗茂の背が見えなくなるまで清正はそれを見送った。



歩き出した巨大な影の背にのって
私は何を知りたいのだろう
ケモノにも鳥にもなれなかったあなた
空を見上げて吼えてみせてよ







久し振りの宗清です。
清正のところに宗茂が居候してた史実から。
宗茂の相手はご想像にお任せします^^
BGMは元ちとせで『恐竜の描き方』。

[2011年 03月 07日]