身を切られるような思いで幸村は京に愛馬・残月を走らせていた。 (まさか、こんなことにっ・・・!!) 徳川と徹底抗戦を唱える石田三成と追従を主張する加藤清正らの間で不和が修繕不可能な範囲まで広がっていることは幸村も知っていた。 だから最初三成が京に上ると言ったとき幸村も供をすると申し出た。 しかし三成の家臣でもない幸村が清正ら、豊臣家重臣の会談に参加するのは不自然、だからと言って供として連れて行くのも三成が今この状況下で京に上ることを恐れているように見えるので矜持の強い三成はそれを許さなかった。 しぶしぶ幸村は大坂に残ることになったのだが、その結果がこれだ。 三成が京で加藤清正含む徳川方武将に囲まれた。 その知らせを受けた瞬間幸村は鈍器で頭を殴られたかのような衝撃に襲われた。 やはり三成を一人で行かせるべきではなかった。 後悔の言葉が何度も頭を駆け巡ったが、そうして過去の過ちを悔いるよりもまず三成の救出に向かうべきだと幸村は考えを改め残月に飛び乗った。 闇に静まり返った京の都。 不穏な動きが蠢く中、一人の足軽兵が真田の赤備えを確認するとたちまち幸村は敵に囲まれた。 「真田幸村、義を誓った友、三成殿をお助けするためここはまかり通るっ!」 そう叫ぶと幸村は十文字槍を振りかざし、敵の群れに正面から突進して行った。 服部半蔵の罠を掻い潜り、城門に入ったところで半蔵の分身に囲まれた三成を見つけた。 「三成殿っ!我らが友情のため助太刀致す!」 そう言って幸村が三成に駆け寄ると、意外にも三成は眉を顰めて幸村を横目で見た。 「友情?義だの友情などと言葉にせぬと不安か?」 そのとき一人の兵士が三成に飛び掛ってきたが、三成はそれを鉄扇で軽々と弾き返し完全に幸村に向き直る。 「逃げるな、それはただの言葉だ。」 そう言い切った三成の瞳には怒りすら感じられて、幸村は何も言えなくなった。 京での三成救出作戦は島左近、直江兼続らの奮戦もあってなんとか成功に終わった。 しかし幸村の胸には二条城で三成に言われた言葉がわだかまりとなって残っていた。 何故なら幸村は似たようなことを以前にも三成から言われたことがあったからだ。 (私はいつも三成殿を怒らせてしまう・・・。) 「幸村。」 意識を完全に自分に向けているときに不意に名を呼ばれ、幸村は反射的に振り返った。 「三成殿・・・。」 「この間のこと・・・すまない。お前は俺を助けに来てくれたのに。」 俯く三成にすぐに幸村は三成が京でのことを言っているのだとわかった。 「しかし俺は自分の言ったことを後悔はしていない。」 ぱっと顔を上げた三成はやはり京で見たとき同様少し怒っているようだった。 (やはり私が三成殿を怒らせている・・・。) 「・・・申し訳ありませぬ。」 幸村が謝ると三成の形のいい眉がぴくりと釣り上がった。 「何故謝る?」 「私の言葉が三成殿を怒らせているようなので・・・。」 「俺は・・・!!」 反射的に三成が何か言いかけてやめた。 「俺は、怒ってなどおらぬ。」 「しかし・・・。」 「怒ってなどおらぬと言ったらおらぬ!」 (やはり怒っておられる・・・。) それでも幸村は明確な理由が思い当らず項垂れる。 いや、原因はわかっている。 三成は幸村が義や友を盾に槍を振るうのが嫌なのだ。 何かに理由を委ねないと生きていけない幸村が三成は好きではないのだ。 「俺の言葉はどうやら人を傷つけるらしい。たとえそれが大切な人であってもな。」 顔を上げると三成と目があった。 「しかし俺は不安なんだ。おまえは俺が死んだらどうなるのだろう、と。」 三成の目は本当にもう怒ってはいなかった。 代わりに悲しげな色をしていた。 「そんな・・・!!三成殿が死ぬことはありません!この真田幸村命に代えても貴方をっ・・・!!」 「だからそれが俺は不安なんだ!」 普段冷静な三成からは想像できない吐き捨てるような物言いに幸村は言葉を詰まらせる。 「・・・いや、いい。俺は謝りたかっただけなのだ。そうだ幸村、今宵は俺の屋敷に来い。久し振りに月でも見ながら酒を嗜もう。」 改まったように三成はそれだけ言うとその場を去っていった。 幸村は小さくなる三成の背中を見つめながらやはり腑に落ちない気持ちだった。 日が落ちてから幸村が石田屋敷を訪れたとき、三成からは昼間のような刺々しい雰囲気は無くなっていた。 そのことに幸村は内心安堵しながら、それでもこのまま何事もなかったように三成の傍に居ていいのか迷っていた。 屋敷の奥、中庭に面した場所にある三成の自室。 幸村が三成のもとを訪れるときはその内縁に腰掛けて何をするでもなく庭の風景や空の月を眺めるのが常だった。 「何を考えている、幸村。」 他愛無い話をしながら酒も進んで、二人は心地よい酔いに火照った身体を冷たい夜風にさらしていた。 三成の声に幸村の視線がそちらに向けられる。 「・・・あの雨の夜のことを考えていました。」 それは三成が幸村に好きだと言った、二人が今の関係になった夜のことを指していた。 三成に拒絶されて、失意のままにこの大坂を去ろうとした幸村を抱きとめたのは幸村を拒絶したはずの三成だった。 ”好きだっ、俺はお前が好きだっ・・・!!” 雨か涙なのかわからないものをその髪と同じ薄茶色の瞳から流す三成に幸村は言葉を失った。 冷たい雨とは対照的に背中からは三成の体温が伝わってくるようで、次の瞬間幸村の中で押さえ込んでいた恋情というものが溢れかえって零れた。 色めいた感情など今の自分には不要なもの。 自分はただ三成と兼続との友情のため槍を振るうだけ。 そう自分に言い聞かせ胸に潜むその思いを隠し続けていたのにまさか三成も同じ気持ちを自分に抱いていたなんて、それを知ったときの幸村は驚きと戸惑い、喜びで身を内震わせた。 そしてやや強引に三成の腕を引き寄せ、その唇に接吻して告げた言葉。 ”私も、お慕いしております。三成殿・・・!” あれから早一月が経とうとしていた。 「早いものだな。まだ俺には昨日のことのようだ。」 こてんと幸村の肩に頭を落とした三成に幸村はふっと笑いかける。 「私もですよ。」 「俺はもう何十年とお前に思いを寄せているような気がする。」 実際はものの数年なのにな、と付け加えながら三成が鼻で笑った。 あの日二人はろくに会話もすることな本能のままにただ無我夢中で絡み合った。 だからこそあの時あの場で置き去りにされていた言葉がずっと幸村の中でわだかまりとなって残っていた。 「三成殿、貴方はあの時私が槍を振る理由を貴方や兼続殿に預けていると言った。そして同じことを京でも貴方は私に言った。」 幸村にしな垂れかかった三成の表情は見えない。 「あの夜貴方は私に言いましたよね、”お前などいらぬ”と。」 その言葉にはっと三成が顔を上げた。 「やはり私は貴方にとっていらぬ存在なのでしょうか?」 「そんなことはない!」 「京での夜、二条城に向かいながら私は恐ろしかった。このまま貴方を失うのでは、と。そしてこのまままた生きる意味を失うのでは、と。」 三成の目が見開き、その薄茶色の瞳に情けない幸村の顔が映った。 「私は貴方の言うとおり、何かに、誰かに槍を振るう理由を預けている。私の武士としての信念はそこに宿っているのです。」 「幸村、それは違う。武士として、真田幸村としての信念はお前自身が持っているはずだ。」 「・・・しかしわかりません。私は以前はお館様の中に、今は貴方の中にそれを見ている。」 眉を下げて首を振る幸村に三成もそれ以上何も言わなくなる。 草木のざわめきと共に風が二人の間を通った。 その時三成の手が幸村の着物をぎゅっと掴んだ。 「・・・三成殿?」 そのまま動かない三成を怪訝に思って幸村が声を掛けると三成にぐっと着物を引っ張られ、その衝撃で前のめりになるとそのまま深い接吻をされた。 「今宵は俺を抱け、幸村。」 褥に移動して、再び深い口付けを繰り返す。 幸村は頬に耳に首筋に唇を落としながら慣れた手つきで三成の着物を剥いだ。 「・・・あっ・・・」 露わになった三成の乳首に吸い付くと甘い声が零れた。 そのまま幸村は三成のいたるところをゆっくりと優しく愛撫していく。 「っ・・・」 声を出すまいと三成が手の甲を当て噛み付ついていると、幸村の手がそっと伸びてきてその手を奪いとり、歯形のついた三成の手の甲に口付けた。 「声を出して下さい。」 そしてそのまま幸村は三成の指に己の指を絡ませて拘束した。 三成の白い陶器のような肌に赤い花弁を残しじっくりと時間を掛けてほぐしていくと焦れた三成から泣いているような声が漏れた。 「ゆ、き・・・むらぁ・・・んっ・・・はや、くっ・・・」 「まだです。もう少し待って下さい、三成殿。」 そう言うと幸村は軟膏を手につけ、三成の後腔を押し開いた。 「んっ・・・」 やはり後ろはまだ慣れないのか、幸村の指の侵入に三成が僅かに眉をひそめる。 それでも幸村が奥の三成のいいところを的確に触れると三成の身体がびくんと震え、あられもない声が溢れ出た。 「ふっ・・・んっ・・・んあっ・・・」 指を一本ずつ増やして、三成の身体が完全にほぐれるのを待つ幸村に対して、三成の方が先に根を上げてしまった。 「幸村・・・はぁ・・・んっ・・・もうだめぇ・・・んっ」 目を真っ赤にして哀願する三成を流石に可哀相に思って、幸村はその汗ばんだ額に唇をそっと落とし、己の着物をさっと脱ぎ去り、すでに大きく育った自身を取り出した。 「三成殿、いきますよ?」 「んっ・・・はやく。」 熱にうなされてこくこくと頷く三成の窄まりにそれを宛がうと、そこを押し開くようにして侵入した。 「う・・・っはああっ・・・!」 その重量に耐えるように三成が声を上げる。 「くっ・・・」 きゅっと引き締まる狭い道をなんとか奥まで推し進めて幸村が息を吐くと三成も息を整えるように浅い呼吸を繰り返した。 「はぁ・・・はぁ・・・ぁっ」 しかし三成の息が整うよりも早く幸村がゆっくりと抜き差しを始めた。 ゆっくりと引き抜いて、重みとともに押し返す、その度に三成は甘い声を洩らして喘いだ。 「んふっ・・・んっ・・・んんっ・・・!!」 三成の耳元で縫いとめた片方の手を放し、それを三成の雄に絡める、そして開いたままの三成の口に舌を捻じ込ませ上からも下からも攻めたてると三成がより一層高まったのがわかった。 「ふあっ・・・幸村っ・・・イくっもうイくっ・・・!!」 それを合図に幸村が律動の速度を速め、三成は腰を浮かしてそれを受け止める。 「ぁぁああっ!」 そして挿入を何度か繰り返したところで三成が甲高い声を上げ、腹に己の精をぶちまけた。 幸村もすぐその後で三成の中に己の欲を蒔いた。 「・・・幸村」 繋がったまま三成の白い腕が幸村に伸ばされて幸村の頬を包み込むと、そのまま三成の方に引き寄せられた。 「んっ・・・ふっ・・・」 舌を絡め、今日何度目かわからない接吻をする。 深く、深く、相手を貪るような口付け。 ゆっくりと唇を離すと透明の糸が引かれた。 「幸村、俺はお前の中に武士としての思念があると信じている。しかしお前がまだそれがわからないと云うのなら、それまではお前の信念、俺が預かろう。俺にはお前が必要なんだ。」 三成の瞳がしっかりと幸村を見据えてそう言った。 「三成殿・・・!」 その言葉に幸村は目を見開いて三成を見つめる。 言いたいことはたくさんあるはずずなのに幸村は歓喜に身を震わせ三成の名を呼ぶしかできなかった。 (三成殿が私を必要として下さっている!) あの日置き去りにして、幸村の胸でわだかまりとなっていた三成の言葉が幸村の中で浄化されていくようだった。 「だから幸村、お前は俺の為に生きろ。絶対に死ぬな。」 「貴方の為に生きる・・・?」 三成の言葉をなぞるように幸村が繰り返す。 それに三成が大きく頷く。 「そうだ、幸村。お前は死んではいけない。俺の為に生き、そして見つけろ、お前の中の信念を。」 (貴方の為なら惜しくないと思った生命。しかし、貴方が生きろと言うのなら・・・!そこに私の道があるのなら・・・!) 「わかりました、三成殿。この幸村、生きて貴方をお守り申し上げます・・・!」 ぐっと胸元に拳を握り頷く。 三成は大きく頷いた幸村に満足したのか、得意げな笑みを浮かべ、その手でそっと幸村の髪を撫でた。 思いが通じても、許されなかった幸村のただ一つの願い。 武士として三成の横で槍を振るうこと。 それが叶えられたようだった。終
三成救出戦あたりでなんかやりたいなー、とか思いつつ書いたらこんなんでした。
意外に凄く手間取った・・・のでもう何が書きたかったのかわからん;
[2011年 3月 27日]