Goodbye My Wings07



どんな絶望の淵だって、歌ってみせる。




「・・・あっ、・・・んっ・・・んっ・・・」
後ろから揺すられるたびに壁に突き出した手錠がガチャガチャと耳元で鳴る。
立ったまま後ろからレオンの猛った雄を受け容れているシエルの脚はガクガクと震え今にも崩れ落ちそうだった。
しかし自分では支えきれずへたり込みそうになるたびにレオンの腕が腰を固定してそれを許さない。
「詞なんか書きだして、君はまだ歌うつもりなのか?」
突き上げる動作を止めることなくレオンが嘲るように尋ねてきた。
「・・・お、まえ・・・んっ・・・には、関係ないだろっ・・・ぁあっ!」
誰がおまえになんかそんな話するか、そう逆らうように言い放とうとするとレオンが機嫌を悪くしたのか後ろの動作がさらに激しさを増してシエルの言葉は喘ぎに消えていった。
「生意気なものだ。ランカ・リーと会ってからだな。彼女が何を君に吹き込んだか知らないが、君は私に尻を差し出すしかない雌豚だよ。」
レオンはここに来るたびにシエルを肉体的にだけでなく精神的に痛めつける。
それは投獄され、悲観に満ちて、一人ぼっちになったシエルにとって地獄のような責め苦であった。
弱った人間をさらに追い詰めるようなレオンの言動、それにシエルはただ惨めに耐えるしかなかった。
そうしているうちにシエルは自分を完全に失っていた。
ただ呆然と毎日を過ごしいた。
だが今は違う。
ランカに会って、シエルはまだ自分には歌があることを知った。
ステージの上でなくとも、観客の前でなくともこの声が続く限りシエルは歌える。
歌うこと、それがシエルにとって自分の存在意義だった。
「雌豚でもなんでも・・・っ、俺は歌う・・・っ!!死刑が執行される、そのときまで、なっ・・・!」
そのとき不意にレオンの動きが止まった。
律動がなくなるとシエルの中の怒張したそれがリアルに感じられて、シエルの不快感を煽った。
急にどうしたのか、と少し首を傾けてレオンの顔を覗くとその口が不敵に三日月に曲がっていた。
こういうときのレオンは大抵とんでもないことを考えている。
そう直感してシエルの背筋がぞくりと震えた。
「シエル、君は何か勘違いしているようだな。」
「・・・どういうことだよ?」
「死刑が執行されれば確かにシエル・ノームは死ぬ。・・・だがそれは表だってのことにすぎん。」
予感が的中したことにシエルは絶句した。
「シエル・ノームのデータはすべて死んだものとして処理され、存在は抹消されるが君自身の身柄は私が預かることになったんだよっ!はははっ!素晴らしいと思わないか、君はその身体がじわじわと病に侵されていくのをじっと私の傍で耐えて待つしかないんだよっ!」
「・・・そんな・・・!」
声高に笑うレオンの声が残酷にシエルの耳に響いた。
「まぁ、そのときは君にペンとノートくらいは与えてやろう!」
そう言うとレオンは再び激しい運動を再開した。
そしてシエルの悲嘆の声はすぐに喘ぎに掻き消されていった。
掴んだと思った光が手の中で弾け飛んでしまう、そんな焦燥感がシエルを襲った。




流星にまたがって
あなたに急降下
濃紺の星空に
私たち花火みたい
心が光の矢を放つ

耳を撫でる懐かしい歌にシエルは重い目蓋を開けた。
聴こえてくるのはアルカトラズには不釣合いな人の歓声と楽器の音、そして明るいランカの声。
そう言えば看守の誰かが今日は慰問ライブがあると言っていたことをシエルはぼんやりとした意識の中で思いだしていた。
そのときは重犯罪者の自分には関係のないことだ、と聞き流していたが、音だけはここまで聞こえてくるらしい。
それに何より慰問ライブの主がランカだったなんて、シエルは懐かしさとその歌声の心地よさに気づけば自分もその歌を口ずさんでいた。
「身体ごと透き通り
絵のように漂う uh uh
けし粒の生命でも
私たち瞬いている
魂に銀河 雪崩ていく」
ゆっくりと身体を起すとシエルは肌寒さに身震いしてタンクトップだけの肌に上着を着た。
”けし粒の生命でも 私たち瞬いている”
その言葉が頭から離れなかった。
そうだ、どんなちっぽけな生命でもシエルは生きている。
レオンやここの看守たちににどんな扱いをされようとも自分は生きているのだ。
銀河の中でシエルの生命一つなんて本当にけし粒のようなものでしかないかもしれないが、それでも生きている限り自分は胸を張って生きればいい。
そう思えてシエルは歌い続けた。

流星にまたがって
あなたは急上昇 oh oh
濃紺の星空に
私たち花火みたい
心が光の矢を放つ

「シエルッ!!」
突然自分の名前を呼ばれてシエルは驚きで歌うのをやめて鉄格子の外を見た。
「・・・ア、ルト?」
髪を下ろし薄く化粧をしてスカートを履いて見た目は完全に女だったがそこにいたのは間違いなくアルトだった。
もう会えないと思っていた。
もう自分の名前など呼んでくれないと思っていた。
それでもシエルが会いたくて会いたくて仕方のなかった人が目の前にいる。
震える声で何か言いかけて、相手も何か言おうとして、しかし今はそんな時間などないのだとアルトは自分に言い聞かせるように頭を振ってシエルに声を掛けた。
「シエル、後ろに下がって屈めっ!」
アルトが導火線を取り出したのを見て、シエルもすぐにアルトがしようとしていることを察してベットの後ろに腰を沈めた。
ドンッと大きな音がすると今まで自分を閉じ込めていた鉄格子がいとも簡単に崩れ落ちた。
「大丈夫か?・・・おまえ、こんなところにまで。」
シエルに声を掛けながら牢屋の中に踏み込んだアルトがその壁一面に書かれた詞を見て、呆れたような感心したような笑みを浮かべた。
「アルト・・・。」
ずっと会いたかった、そう言ってアルトの胸に飛び込んで行こうとして寸でのところでシエルを押し留めたものがあった。
(だめだ・・・俺は・・・。)
自分は散々アルトを裏切ってきたのだ。
今更何もなかったようにアルトの手をとるわけにはいかない、とシエルの理性が警告する。
それに少なからずこのアルカトラズでの出来事がシエルを思い留まらせていた。
「・・・シエル?」
視線を彷徨わせて立ち上がろうとしないシエルを不審に思ったのかアルトが気遣わしげに声を掛けてきた。
それに対してシエルは俯いて唇を噛み締めることしかできなかった。
「おいで。」
しかし次の瞬間頭上で包み込むような優しい声がして顔を上げると母親のような慈愛に満ちた笑顔で両手を広げるアルトがそこにいた。
「アルトッ・・・!!」
その瞬間シエルの中で理性という堤防が決壊して、本能のままにアルトの腕に飛び込んでいた。
アルトはシエルを受け止めるとそっとその手でブロンドピンクの髪を撫でた。
「ずっと・・・会いたかったんだっ・・・!!」
その温もりにシエルの視界はぼんやりと滲んだ。




to be continued...






あとがき

今回は短いです!
シエルが絶賛デレ全開の受け全開です。
一応これでもリバ目指してんだけどな・・・。
気を抜くと頭の中の彼はアルトより背が低くなってます;いかんいかん!
[27.03.2011]