Goodbye My Wings11







初めて君に会ったときのことを思い出していた。


「・・・エルッ・・・シエルッ!」
自分の名前を呼ぶ声にシエルの意識が引き戻されていく。
一瞬早乙女アルトがそこにいるような幻想を抱くが、どうやら懐かしい記憶と混同したらしい。
「オズ・・・マ?」
重い目蓋を開けるとそこにはSMS隊長、オズマ・リーがいた。
「大丈夫か?」
起き上がろうとすると眩暈がしてすぐにオズマに支えてもらわなければならなかった。
記憶が曖昧でシエルは眩む額に手を当て状況を順番に思い出そうとした。
(確かアルカトラズから逃げて、シェルターを移動しているときにブレラに襲われて・・・)
「何で俺たち生きてるんだ?」
自分とオズマはブレラが起した爆風に呑まれて宇宙に放り出されたはずだ。
アルトが何か必死で叫んでいる姿が最後の記憶だった。
アルカトラズの牢獄の中でもう二度と会うことはないと思っていたアルトに再び出会えて、それでシエルにとっては充分だったのだ。
だからランカの背を押して自分は永遠に宇宙の藻屑として消え去ろうと思っていたのに、まだこうして生きている。
飛ばされたときにどこかを打ち付けたのか体の節々は痛いし、それでなくとも病気に侵されたこの体はもうボロボロだ。
それでもまだこうして生きているのがシエルには不思議でならなかった。
「こいつが助けてくれたんだ。」
そう言って差し出されたオズマの手にはいつかランカと一緒にいた緑の変った生命体が体を丸めて縮こまっていた。
「可哀相に・・・俺たち二人を運んで力を使い切っちまったらしい。」
「そう・・・」
こんな小さな体で大人二人も運んだのだ、並大抵のことではないだろう。
弱りきったそれを思うと胸が締め付けられて、労わるようそっと手を伸ばしたところでガラガラと瓦礫の落ちる音がして、そこから銃器を手にした人形(ひとがた)が浮かび上がった。
リボルバーを引く音がして撃たれる、と思った瞬間シエルの背後で男の呻き声が聞こえた。
どうやら狙ったのはシエルたちではなくここに潜んでいたフロンティア軍のようだ。
ならば今自分達を救ってくれたのは誰だろう、と弾の飛んできた方向に目を凝らすと半身からインプラントの回路を剥き出しにしたグレイスがそこにいた。
「・・・グレイスッ!!」
思わず駆け寄ると、グレイスは今の発砲で力を使い切ったといわんばかりにぐたりと倒れこんでしまった。
「グレイスッ」
「皮肉ねぇ、インプラントから解放されて初めて自由になったらこれよ。」
一糸纏わぬ彼女の片腕はもげ、脚ももはや自由が利かぬ状態だった。
ずっとギャラクシーに道具みたいに使われて、結果がこれだ。
自分たちはただ自分の為すべきことをしてきただけなのに。
「シエル・・・あなたは私が育てたのよ・・・」
頬にひんやりとしたグレイスの女性らしい指が触れた。
シエルはその手を包み頬を摺り寄せる。
ギャラクシーで行き場を失くした自分を拾って育ててくれたのは彼女だ。
一人で生きてきたなんて嘘だ。
意地っ張りで我侭でそのくせ寂しがりやな、そんなどうしようもない自分にいつも付き合ってくれて、そんな自分をずっと支えてくれていた。
彼女がいなかったら自分はスラムで野垂れ死んでいただろう。
シエルにとってグレイスは母親同然だった。
だからこんな姿のグレイスを目の当たりにしてなんと声を掛ければいいのかわからなかった。
胸に何かかが詰まって、感情ばかりが高まって言葉にならない。
シエルが言葉を発することができずにいる間にグレイスは手を離し、何か探り出すような動作をして、手にしたものをシエルに差し出した。
「・・・歌って・・・」
そこにあったのはマイクとイヤリングの片割れだった。
「教会のアンプを機動してきたわ・・・」
「・・・グレイス」
グレイスの言葉にシエルは強く頷いて見せる。
(そうだ、俺はまだ歌い続けるんだ)
こうしていろんな人の助けで自分はここまでこれた。
そしてこの命が与えられたワケ。
それはシエルにとって歌うことなのだ。
シエルは素早くイヤリングを耳に付け、マイクを受け取り立ち上がる。
そして最後にもう一度グレイスを振り返ってシエルは言った。
「ありがとう」
もう会うことはないだろう。
それでも自分と彼女の間にはその言葉だけで充分だった。
自分達はそれほど長く一緒にいたのだ。
「おい、シエル歌うのか?お前の体はもう・・・」
オズマが心配そうに尋ねてくるが、シエルは銀河の帝王独特の自信ある笑みで返すだけでそれに答える。
(俺の歌で銀河を震わせてやる)
もう迷いも後悔もなかった。
今願うことは唯一つ。


この声が枯れるまで君の宙(そら)を...


誰か空虚の輪郭を、
そっと撫でてくれないか
胸の鼓動に蹴っ飛ばされて、転がり出た愛のことば
だけど困ったな、答えがない

宿命に磔りつけられた、北極星が燃えてる
君を掻きむしって濁らせた
なのに、可憐に笑うとこ...


好きだったよ




To be continued...




あとがき

巻いていきます。
次あたりで終わる、かと。
[18.05.2011]